薬局の経営に大きく影響を与える調剤報酬の改定が2024年にあります。
改定の内容が気になる薬剤師・事務長は多いのではないでしょうか。
令和5年12月11日に令和6年度診療報酬改定の基本方針が公開されました。
今回はその資料を読んで調剤報酬の今後がどうなるか考えてみましょう。
※資料を読んでの推論ですので、不確定な改訂の方向性の話であることをご理解ください。
目次
基本方針から考えられる診療報酬改定の方向性
先に結論から述べると「子育て世代が優遇され、所得がある高齢者の医療費負担は増え、フリーランスのような働き方に対応した保険制度が構築され、その財源は高齢者の負担増加とDXによる生産性向上により確保される」のではないかと考えます。
個人の見解ですが、その背景には医師会の影響力は以前より減少し、財務省の力が増してきているのではないかと考えています。
これにより「診療所の報酬は削られ、診療報酬そのものは大して増えないが、労働環境の改善や賃金上昇をしないとデメリットを被る仕組みを入れて企業の負担を増やす内容となる」と考えています。薬局の機能評価もDXを勧めているかに焦点が当てられることでしょう。
それではなぜそのように考えたか関連資料を見ていきましょう。
以前に公開された資料が気になる方は「調剤についてその3を読んでみた」もご確認いただければ幸いです。
現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進が重点課題とされている
医療分野では賃上げが他の産業に追いついていない状況にあることがわかっています。
それはすなわち、人材流出のリスクを抱えている状況となります。
その一方で、高齢化が進むため、医療介護の労働者の需要は高まる一方です。
そのため、賃金上昇による人材確保と医療現場の負担を減らす働き方改革により労働者の確保をする必要があります。
タスク・シェアリング/タスク・シフティングにより、「この仕事は薬剤師でなくてもやって良い」といった規制緩和が進むことでしょう。
令和4年改定の規制緩和の事例として退院時共同指導料があります。
気になる方は「誰も集まれず算定が難しい退院時共同指導料」の記事を参考にしていただければと思います。
資料の中の”勤務環境改善に資する取組を評価”というキーワードから、医療機関の労務管理・残業対策がより厳しくなることでしょう。
推進するポイントは地域包括ケアシステムと医療 DX を含めた医療機能の分化・強化、連携の二つ
以前より地域包括ケアシステムを推し進めてきましたが、まだ十分とはいえません。
地域包括ケアのビジョンのうち、実現できていない点を目標に報酬が設定されることでしょう。
地域包括ケアの切れ目となってしまう部分が、各医療機関における情報の連携です。
そこで、医療 DX の推進による医療情報の有効活用が必要となります。
具体的には以下の情報とされています。
電子処方箋の普及、電子カルテ情報の3文書・6情報(診療情報提供書、退院時サマリー、健康診断結果報告書、傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、検査情報(救急及び生活習慣病)、処方情報)の入力・管理、入院診療計画書等の電子的な文書提供等の医療情報の標準化・ICT の活用等を通じて、医療連携の取組を推進。
令和6年度診療報酬改定の基本方針
情報の連携により、医療の切れ目のない地域包括ケアを実現しやすくなります。
情報連携に必要な入院する際のトレーシングレポートについての記事がありますので気になる方はご覧ください。
視点を変えて経済財政諮問会議資料から調剤報酬改定の方向を考える
続いては少し時を遡り、令和5年12月5日に経済財政諮問会議の話題です。
その中では、診療報酬改定の2024年よりも先の2028年をみすえた目標設定についても述べられています。
全世代型社会保障の構築を考えている
現状日本は高齢者が医療費を多く利用し、さらには若い世代よりも多くの年金を受け取っている状況です。
選挙に有利な人数の多い人口構成に照準を合わせて優遇した結果、特定の世代が恩恵を受ける社会保障が実現されてきたことは事実です。
その過去の事実を変えることはできませんが、資料の中で「不退転」「ラストチャンス」という言葉を使用した目標設定がなされています。
「将来世代」の安心を保障する
「全世代型社会保障」というキーワードの通り、高齢者を保証するだけではなく、これから生まれてくる将来世代を含むとされています。
日本は出産一時金が他の国より低く、育休取得率も低いため産前産後のケアが十分とはいえません。
そこで、金銭的な支援と育休取得率の向上を目的とした安心して育児に励める保障が求められます。
その負担を"将来世代へ先送りせず見直す"とされています。
能力に応じて、全世代で支え合う
「全世代型社会保障」は、年齢に関わりなく、全ての国民が、その能力に応じて負担し、支え合うことによって、それぞれの人生のステージに応じて、必要な保障がバランスよく提供されること
全世代型社会保障構築を目指す改革の密筋
これは育児をしておらず収入が高い人が、育児に励む人を支える構造になるのでしょうか。
自分が育児をすることになったら給付を受けるが、それまでは納める側ということになるのでしょうか。
バランスが非常に難しい内容に思えます。
現役並み所得の高齢者の医療費負担が増加したように、一定の収入や金融資産を持つ高齢者の負担が増えることが考えられます。
制度を支える人材やサービス提供体制を重視する
これは保育、医療、介護人材の賃金を上げ、労働環境を整備することを指しています。
負担となる働き方と低賃金による人材流出が最大のリスクとなることでしょう。
システムの活用による効率化も関与してきます。
労働生産性を向上させるシステムに補助金の予算が充てられることが考えられます。
少子化や人口減少に対応した社会保障制度の構築に向けた具体的な方針
従来の社会保障は、「人口が増加していく前提で、高齢者が恩恵を受けやすい構造」となっていました。
ご存じの通り現在は少子高齢化の社会構造であり、その構造は継続可能なものではありません。
素案として述べられているのは「少子高齢化・人口減少時代に全世代が恩恵を受けられる構造」の構築を試みる内容となっています。
そのなかで注目したい点が「こども・子育て支援加速化プラン」です。
2030年をラストチャンスと考えた「こども・子育て支援加速化プラン」の内容とは
1. 改革工程では少子化トレンドを反転させるべく、2030年までをラストチャンスと捉え、戦略の「こども・子育て支援加速化プラン」を進める必要があると述べられています。これはずばり、夫婦あたり子供を3人以上育てやすくしましょうと言うことです。
2. 子育て費用を社会全体で分かち合う中で、若い世代が希望通り結婚し、希望する誰もがこどもを持ち、安心して子育てができる社会を実現するための環境を整備していくと述べられています。これはそもそも若者の賃金向上をすることを指していることでしょう。
3. 子育て支援の充実、教育の質の向上、子どもの貧困対策、子どもの健康対策、子どもの安全・安心対策、子どもの地域社会参加の促進など、こども・子育て支援に関する具体的な施策が提案されています。育休を取得しやすい社会環境の整備と、育休中の手取り額の上昇等、大学の無償化が検討されているようです。
また、全世代型社会保障を構築する観点から、報告書で示された「全世代型社会保障の基本理念」に基づき、社会保障の制度改革や歳出の見直しに取り組むことが提案されています。
2028年度までの各年度の予算編成過程において、実施すべき施策の検討・決定を行い、全世代が安心できる制度を構築し、次の世代に引き継ぐための取組を着実に進める必要があると述べられています。
診療報酬改定に対応できない職場に留まる必要は無い
現在勤務している薬局は、令和4年の改定の際に地域支援体制加算の算定に向けた目標設定や取り組みはいかがでしたでしょうか。
情報提供書の作成や在宅医療の患者を受け入れる体制の準備、タスクシフトを考慮した業務フローの見直しがそれにあたります。
これらの内容は店舗のメンバーが力を合わせて行う必要があり、自分だけで行うには限界があります。
自分だけで薬局の改善に取り組むよりは職場を変えた方が早いです。
転職サイトに登録し、自分が取り組んできた改善についてをエージェントに話してみましょう。
調剤報酬改定に対する取り組みの負担を一人で抱える必要はありません。
転職サイトの登録はどちらかで十分です。登録するだけでも視野が広がります。
参考資料:令和6年度診療報酬改定の基本方針、令和6年度診療報酬改定の基本方針の概要、全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)について(素案)、社会保障分野における今後の対応